第一弾★
オレがおまえの夏休みの宿題を手伝ってやる。
結果報告。

こんな企画に応募する奴なんているはずがないと思ったら、いた。
というわけで、宿題を手伝いに行った。

8月某日。
台風接近中。
厚い曇がマラソンのように流れていく。
電車を乗り継いで待ち合わせの図書館へ向かう。
すっぽかしてくれたらいいネタになるのだが…と期待に胸を膨らませながら、
来るべき結果に備え、ホームページに書きなぐる文章を考えながら、ローカル電車の旅を楽しんだ。
様々な結果を想像しては、ネタをノートに書き込む。
かなりおもしろいものが書けたので、早く発表したいという気持ちになっていたのだが、
思い通りにはいかないもので、依頼人はきっちり時間通りに到着し、オレを待っていた。
依頼者のAさんは、高校2年生である。
もう夏休みも残すところ数日だというのに、大量に宿題を溜め込んでいた。
その量の多さに驚く。
随分夏休みをエンジョイした事だろう訊ねると、そうではなく、何もしないでいたら、ただ時が過ぎていってしまったのだという。
とりあえず、英語を引き受けることに。
図書館の机に向かい合って座り、早速取り掛かる。
無言のまま黙々と問題を解いていく。
Aさんは勉強ができる人のようで、すらすらとこなしていくのだった。
見知らぬふたりが、無言のまま夏休みの宿題を片付けている。
もっとも、Aさんは少女単体の前回公演を見ているので、一方的にオレに面識を持っているわけだが。
英単語はすっかり忘れてしまった。
辞書で引きながら、単語の意味と、当時留学していたオックスフォードを思い出す。
記憶がページになぞられる。
終始無言。
筆跡が違うので、先生にバレて怒られないかと心配すると、「別にいい」とのこと。
そのまま続ける。
お昼は交代で食べた。

宿題に集中する。
結局、午前中から閉館時間まで宿題をやった。
英語はすべて完了することができたのだが、他の科目が残ってしまった。
あまり力になれなかった。
まあ、宿題を手伝うという行為自体、あまり本人のためにはならないのだが。

その後、お腹も減っていることだし、とりあえず何か食べましょうということで、食事に行く。
スパゲティーを食べながら、やっとAさんと話をする時間が持てた。
互いの諸々の話や、舞台の感想などを聞いているうちに、話は徐々にコアな方へズレていった。
Aさんは学校を辞めたがっているのだそうだ。
直接的な原因はなく、ただ漠然と辞めたいのだという。
しかし、辞めたところで、他に何かしたいことがあるわけでもなく、どうしたらいいのかわからないのだそうだ。
辞めるか辞めないかで言えば、世間体としては辞めない方がいいに越したことはないのだろうが、
Aさんの若くて純粋な感性を学校などどいう廃墟に留まらせておくことは、とてももったいない事のように思えた。
「何かしていなければダメ人間」という社会の構図が憎らしかった。
本来、何もすることなどないはずなのだ。
見えない脅迫によって苛まられているAさんの苦痛は、とてもよく理解できた。
その苦しみは凄惨なまでの美しさを放っており、不謹慎ながらも見惚れてしまった。
こんな時に気の利いた言葉でも掛けられればいいのだが、何もできない自分が情けなかった。
オレはただ、初対面の人間を相手に怖がらず心を開けるAさんの素直さに感服し、黙して耳を傾けるばかりだった。
どうしたらよいのかわらないのはオレも同じで、そのどうしたらよいのかわからない他人同士が、
目前の宿題を「こんなもの何の役に立つのだ」と思いながら片付けた時間が、何か彼の救いになってはくれないだろうかと思った。


別れ際、月がとても綺麗だった。
何だか、熱いものが込み上げてきて、泣きそうになった。
Aさんが毎日楽しくいて欲しいと、ただそのことばかりを願って、また長い電車の旅に乗った。